株式会社ハードオフコーポレーション2020.10.01
循環型社会の構築を目指して
日本式リユースを世界へ。
家電・楽器をはじめ、古着や家具、ゲームなどの玩具、カー用品にブランドアイテム、酒類まで……ありとあらゆる中古品のリユースを一手に引き受けるハードオフグループ。エコロジー社会と調和し、拡大を続ける独自のビジネスを確立した山本社長に、人と社会とが関わり合う上で大切なことを伺った。
山本 太郎(やまもと たろう)1980年生まれ。新発田市出身。早稲田大学商学部卒業後、(株)ファーストリテイリングに入社し、ユニクロ梅田店のオープン等に携わる。2007年株式会社ハードオフコーポレーション入社。2019年、代表取締役社長に就任。幼少よりボーイスカウトとして野山に親しみ、現在もスポーツが趣味。全国の自社スタッフを誘ってフルマラソンに出場したことも。
その仕事は、社会のためになるかという問い
御社の事業内容と沿革について教えてください。
我々ハードオフグループは、フランチャイズ加盟をしている『ブックオフ』を含め、7業態でリユースショップを展開しています。主力業態はオーディオ・楽器・PCなどを扱う『ハードオフ』と、洋服・インテリア・家電などを扱う『オフハウス』。それに続く形で『ホビーオフ』『モードオフ』『ガレージオフ』『リカーオフ』と、それぞれ取扱商品によってブランドを分けております。
前身となったのは、父が営んでいた「サウンド北越」という新品オーディオ専門店でした。バブル崩壊の時期に経営が非常に苦しくなりまして、1993年に業態変更。ハードオフ1号店(新潟紫竹山店)を立ち上げました。それ以来、フランチャイズの仕組みを導入しながら、日本国内・海外へと進出しております。
まだ「リユース」という言葉が一般的ではなかった時代に、
そのように業態を変更したきっかけは?
生きるか死ぬかの瀬戸際でしたから、カッコよく事業計画書を練って始めたわけではありません。ある日突然「新事業をやる」と聞いて、子どもながらに驚いた記憶があります。その頃の父は、仕事終わりに百均の商品やファッション小物なんかをたくさん買ってきて、家族にあれこれと意見を聞いていました。今にして思えば、そうやって新事業を探していた父の姿をもっとよく覚えておけばよかったと感じます。
そうして誕生したハードオフコーポレーション。
経営理念には強いこだわりがあるのだとか。
はい。一番大切なのは「社会のためになるか」という問いです。かつてサウンド北越が潰れそうになったとき「本当にこの店は、社会のためになっているだろうか」と議論になりまして。やはり世間で長く商売を続けるには、人に必要とされることをやらなきゃいけないな、と。
ハードオフが今日、エコの推進で社会に貢献している(と、自負しております)ように、まず第一に企業とは「社会のため」にならなきゃいけない。第二にはもちろん「お客様のため」。第三には「社員・スタッフのため」。従業員さんを大事にしないブラック企業のような振る舞いで、他のものが成り立っても駄目だという考えですね。
「社会のためになるか」→「お客様のためになるか」→「社員・スタッフのためになるか」という優先順位を守って仕事をしていると、最後には必然的に「会社のためにもなる」んですね。結果として利益が出せ、事業継続ができる。そして、いただいた利益の一部を納税することで、また社会のためになって……といった具合に、「経営理念の循環」を意識しております。
この「循環(Re)」というのがポイントでして。リユースによって社会資源が循環するように、ハードオフの理念も循環していく。リユースはもちろん、リセット、リスタートなど「Re」って言葉は我々のキーワードとして、常に近くに置いています。
修業時代のエピソードをお伺いします。
大学卒業後はなぜ(株)ファーストリテイリングへ?
大学で自分の進路を色々考えましたが、やはりいずれはハードオフへ入社したかったので、「小売業の勉強ができる」「チェーン店を構えている」「大きなビジョンとグローバルな展開がある」といった要素を踏まえ、ユニクロの流儀を勉強させていただくつもりで入社しました。
日本各地で4店舗を経験させていただく中で、「仕事の楽しさ」っていう根本的な部分から、今の社長業にも繋がる学びまで、非常に多くのものを得られました。本来であればそのまま5〜6年ほどお世話になりたかったんですが、約2年後、27歳でハードオフに入社しました。
というのも、当時すでに会長職に就いていた父が、一度体調を崩していまして。外部コンサルタントの方に社長業をお任せしていたんです。タイミングとしては早めの転機になってしまいましたが、ユニクロもハードオフも徹底的な理念経営を貫いているのが特徴ですから、移った後も違和感なく、同じような感覚で仕事に取り組めたのは幸いでしたね。
日本列島の縮図、新潟県
創業の地である新発田市についての思いを教えてください。
我々が掲げるビジネスモデルの成立には、新発田市の存在が欠かせません。これが仮に新潟市とか、東京の新宿とかだったとしたら、全国規模でここまでの展開はできていなかったと思うんですね。人口約10万人の新発田市でこうして経営が成り立っているというのが、ポイントのひとつだと考えています。
10万商圏の地で創業し、フランチャイズ加盟希望者の方に「これなら自分たちの街でもできる」と感じていただけたからこそ、今のハードオフがある。そういう意味で新発田市には大変お世話になっていますので、今後もここを拠点に、一緒に発展していきたいと考えています。
国内展開に関して、今後の目標はありますか?
現在、全国に903店舗を構えておりますので、数値目標としてはまず1000店舗。さらに将来的には、あらゆる地域を「新潟県のようにしたい」と考えております。つまり、全国どこに行ってもあちこちにハードオフがあるような状態ですね。
新潟県というのは非常に優れたモデルケースなんですよ。人口約222万人に対し、53店舗を展開しておりますが、仮にこの規模を全国各地で達成した場合、単純計算で約3000店舗を出店できることになります。全国にはまだまだ空白地点の方が多いと思うと、やりがいがありますね。
「新潟県が優れたモデルケース」というのは?
変な話ですけど、新潟県って日本列島の縮図だなって思ってまして。「新潟でできたことは、基本的にどこでもできる」というのが私の持論です。上中下越で他県3つ分くらいの広さがあり、気候や文化もそれぞれ異なる。新潟で試行錯誤した経験っていうのは、日本全国で何かと応用が効くといいますか。アメリカで店舗候補地を探すときも「この街は新潟でいうと〇〇っぽいよね」みたいな話をしていました。いったん新潟に当てはめてみると、不思議といろんなものが見えてくるんですよ。
次に、海外展開のきっかけについて教えてください。
世界中でリユースを一般的なものにするためです。日本には「もったいない」という言葉や、物を大事に使う文化が根付いており、ここ20年で誰もが気軽にリユースを実践できる環境も整いました。一方で海外の暮らしを見ていると、みんなゴミを大胆に捨てているなと気づきます。次に使うことはあまり考えず、雑に消費してバンバン捨てる、みたいな。
我々の「日本式リユース」は(国や地域にもよりますが)そうした方たちにも喜ばれました。アメリカでは「amazing!(何だこれは)」と言いながら入店されるお客さまがいたとか(笑)。向こうにもガレッジセールなど、リユースの文化自体はありますが「誰でも気軽にできる」という観点で、非常に新鮮なものとして捉えていただけたようです。
今はコロナウイルスの影響もあり、海外に向けての身動きは難しい部分もありますが、短期的な視点で方向転換するのではなく、粘り強く成功するまで続けていきたいと思っています。
移り変わる社会の中で、残り続けるもの
社長就任以前よりイメージしていたという、
独自のオムニチャネル構想について教えてください。
ハードオフの一番の強みは、やはり「リアル店舗」なんです。903軒お店を構えるって、なかなか簡単じゃないんですよ。資本力があればすぐにできるという類のものでもなく、一店舗ずつ大家の方にお願いして、契約を結んで、店長を育成して……っていうのを903回積み重ねてきたわけですから。
ただ、じゃあこれから先、本当にそれだけで勝負できるかなと考えると、やはり様々なチャネル(WEB・スマホアプリなど)にも挑戦しなきゃいけない。小売業界にはオムニチャネルという概念がありますが、「Re」というキーワードも踏まえ、より我々にマッチする概念として「”Re”NK CHANNEL(リンクチャネル)」という言葉を作りました。リアル店舗を中心にチャネル同士を繋げ、循環を加速していくようなイメージです。
昨今はコロナ禍の影響もあり「リアルよりネットだ」というムードがありますが、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションって人間には絶対必要だと思うんです。だからこそ、我々独自の良さをしっかり磨いていきます。
就任から1年。ご自身の心境や、今後の方針に変化はありましたか?
就任当時より意識していたのは「不易流行」。変えてはいけない部分、時代とともに変化すべき部分について考えながら、実際に一年過ごしてみたところ、狙いはおおむね間違っていなかったかな、と感じております。
先ほど申し上げたような、WEB対応やアプリ開発などの「変化すべき部分」については、よりスピード感を早めていく必要があるな、という印象。まだしばらく先だと思っていた時代が、コロナ禍によって社会が激変したことで、すぐそこまで迫っています。流れに乗り遅れないよう注意しながら、新しいことに次々と取り組んでいきたいですね。
一方で「変えてはいけない部分」、すなわち経営理念とその循環や、我々にとって商売の原理原則である掃除と挨拶など、ごく基本的な文化については、今後も変わらず大切にしていきます。
掃除と挨拶が「商売の原理原則である」というのは?
基本中の基本として、ユニクロでも全スタッフに徹底されていた教えです。我々ハードオフはリユースショップですから、もしかするとユニクロ以上に厳しく指導しているかもしれません。
というのも、かつての「リユース」っていうのは何かこう、薄汚いイメージでして。周りには雑草が生え、商品は埃を被り、当然挨拶などなく……っていうのが、リユースショップの当たり前だったと思うんです。ハードオフはそんな現状を変えるため、およそ四半世紀かけてイメージを刷新してきました。明確なこだわりを持って続けてきたことですから、今後も変えるつもりはございません。
何かを始めるときには「まずやってみる」
若年層の読者へ向けて、メッセージをお願いします。
何か新しいことをやるのって、非常に難しいですよね。成功するかな、どうかなっていろいろ考え込んじゃうと思うのですが。私としてはもう「やってしまう」のが一番成功率の高い方法なんじゃないかと思っています。
我々が海外進出をしたときは、事業計画を数年かけて立てて、いろいろ調べて……ということはせず、もう「やろう」って言ってアメリカ行って、何も言葉も分からない中で不動産物件を探して、業者を探して、チームを作って、スタッフを採用して……と、完全に手探りでやってきたんですね。
それによって確実に前に進めた部分がありますので、「考えて、考えて、考えてやる」とか「考えて、考えて、考えてやらない」ではなく「まずやる」。そういう思い切りが大事。このスタイルは別に、特定の時代だったからできたというわけではなく、いつの世も通用する考え方なんじゃないかなって思います。
何かを成し遂げたいときには、スピード感が大事なんですね。
まぁ……「計画性が薄い」とかって言われちゃうと困っちゃうんですが(笑)。そうかなぁと思いつつ、やらないことには何事も始まらないですからね。それに、やはり新潟で何かを成功できると強いと思うんですよ。繰り返しになりますが、言わば日本の縮図ですから。この地でなにか新しいことをしてやろうっていう意志は、きっと糧になります。
現在、新潟県内の上場企業は我々を含め38社ですが、ゆくゆくは50社くらいに増えてほしいなって思ってまして。そのために、我々先輩経営者たちにどんなサポートができるのか、いろんな方が集まって知恵を出し合っているところなんですよ。
そのひとつが「新潟ベンチャー協会」と言いまして、3月に設立し、これから本格的な始動となります。詳しいお話は、今後NEXT NIIGATAに登場されるであろう皆さんにお任せいたします(笑)。
インタビュー:2020年8月
Information
株式会社ハードオフコーポレーション多岐にわたる中古品の買取・販売を行う。直営およびフランチャイズ方式で全国にリユースの波を広げ、循環型経済社会に貢献。”日本一環境に優しい球場”として命名権を取得した、エコスタこと「HARD OFF ECOスタジアム新潟」や、劇団ひとり氏が出演するTVCMで県民に広く親しまれている。
〒957-0063 新潟県新発田市新栄町3-1-13
TEL:0254-24-4344
URL:https://www.hardoff.co.jp/