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column 14

株式会社スノーピーク2021.10.01

キャンプ=非日常ではなく、
365日の暮らしを豊かにするもの。

オートキャンプの先駆け的存在であり、多くのキャンパーを魅了してきた株式会社スノーピーク。近年ではアパレル事業やキャンピングオフィス事業など活動領域を広げ、ユーザーに新しい体験価値と感動を届けている。同社を牽引するのは、32歳の若さで社長に就任した山井梨沙氏。アパレル事業の立ち上げも担った同氏に、スノーピークの根底にある哲学を伺った。

山井 梨沙(やまい りさ)1987年生まれ。新潟県三条市出身。文化ファッション大学院大学を卒業後、アパレル業界に就職。2012年スノーピークに入社し、2014年アパレル事業を立ち上げる。事業本部長、企画開発本部長、代表取締役副社長を経て、2020年現職に就任。自著に『FIELDWORK -野生と共生-』(マガジンハウス)がある。

キャンプを通してライフバリューを提供する

御社の事業内容、沿革を教えてください。

株式会社スノーピークは1958年に私の祖父が創業し、当時は金物問屋として大工道具などを全国に卸していました。祖父の個人的な趣味がロッククライミングで、新潟県と群馬県の県境にある谷川岳に毎週のように通っていたのですが、ロッククライミングはアメリカから入ってきた文化なので、日本人に合うように、地元の燕三条の技術を使った納得のいくクライミングギアを作り始めたのがスノーピークの始まりです。

社長室には、創業者・山井幸雄氏の写真が飾ってある。

その30年ほど後、1986年に私の父が入社して、今でいうスノーピークのオートキャンプの事業を社内起業の形で立ち上げました。それからまた30年ほど月日が流れて、私が入社したのが2012年。2014年に、より自然と都市をつなぐために、都市でも自然でも機能するアパレル事業を立ち上げました。三世代にわたり、それぞれが自分の得意分野で事業を立ち上げて今に至っています。

アパレル事業の立ち上げ以降、我々のミッションステートメントの中には「自然指向のライフバリューを提供する」という一文があります。オートキャンプ事業をはじめ、アパレル事業、住宅事業、飲食事業、キャンピングオフィスや地方創生事業など、“衣・食・住・働・遊”を通して、自然指向のライフバリューを提供する企業に成長しています。

昭和38年頃にはスノーピークのブランド名を商標登録していたそうですね。

当時、わざわざ電車に乗って山を楽しむということは、すごく贅沢なことだったと思います。昭和30年代に、スノーピークというブランドの名前を付けることもそうですし、自然の中で豊かな遊びをしていた背景からも、祖父は文化人でかなり先進的な人だったと思います。

幅広い事業展開のなかでも、今一番力を入れているところは?

アパレル事業を立ち上げた当初に、現会長の父に言われたのが、「我々のミッションは、自然指向のライフスタイル・ライフバリューを提供すること。だから、10年、20年後にスノーピークがキャンプブランドじゃなくなっていてもいい」

その一言があったからこそ、人が生きるためには着るものも住環境も食べるものも必要だよね、ということで、どんどん事業が広がっていった経緯があります。今、アパレル事業が20億円程度の売り上げですが、他の事業もアパレル事業に続く中核事業に成長させていきたいと考えています。

コロナ禍でワーケーション、テレワークが推奨されている中では、キャンピングオフィス事業にとても期待しています。日本のキャンプ人口はたったの7%と言われていますが、労働人口の比は圧倒的に多いです。働く環境に自然を取り込むことが、これからの時代に必要になっていくのではないかと思います。

2022年春オープン予定の、温浴施設を中心とした複合型リゾートについてもお聞かせいただけますか。

温浴施設を作りたいと主導していたのは父です。本社機能をもったキャンプ場併設のオフィス、ヘッドクォーターズ(以下HQ)ができてから、ちょうど丸10年を迎えました。本当は、この施設ができた当初から温浴施設をつくりたいという話があったんです。でも、当時の売り上げ規模や、投資の金額があまりにも大きいということで10年の月日が流れて、やっと来年開業できる運びになりました。

我々が本社を置く新潟県三条市の下田地域は、日本の原風景が残る自然豊かな地域で、各所で温泉が出ています。温浴施設を通して、地元の人にもスノーピークの体験価値をお伝えしたいですし、キャンプをまだハードルが高くて取り組めていない方にも楽しんでいただきたいと思います。

ファッションの役割を模索

幼少期は、家業をどのように見ていましたか?

私は、ちょうど父と母が結婚して入社したタイミングに、三条市で生まれました。幼い頃から父と母と出社して、会社のお姉さん方に遊んでもらったことを、今でも覚えています。

今となってはですが、父が経営者という環境があったからこそ、自分で事業を立ち上げることにつながったと思います。正直、父には「社長や経営者の仕事はキツイ仕事だから、女の子には継がせたくない」と言われながら育てられたので、「まさか自分が社長になるとは」というのが正直なところなのです。

オーナー企業でファミリービジネス、日常的に家族でキャンプを楽しむのが当たり前、という環境で育ちましたが、一番興味を持って取り組んでいたのがファッションだったので、高校卒業後は東京の服飾学校に進学し、ファッション業界に入りました。

そして、幼い時から人との関わり、製造先さんとの関わりを間近で見てきたからこそ、業界の人間関係や体制に疑問が生まれたタイミングがあって。やっぱり、自分が生まれ育ってきたアウトドアのカルチャーをファッションとして伝えたい、と考えが変わり、自分の意志でスノーピークに入社しました。

入社してからは新規事業を立ち上げ、若手のボトムアップ組織にするべく、組織改革や人事評価制度に取り組むといった活動を経て、社長に就任しています。

現在は新潟と東京で生活されていますが、いったん新潟を離れたことで、新潟を見る角度が変わりましたか?

本社のHQができたのがちょうど10年前、私が22か23の時ですが、その時はもう10年近くアウトドアや自然から遠ざかっていました。ですが長年の父の夢であったキャンプ場併設の本社ができたということで、東京から友達を連れて訪れたんです。

当時は東京、しかもファッション業界で、キャンプをしている友人なんて一人もいません。でも、「土で汚れるのが嫌、虫が嫌」という友人たちを連れて、2泊3日のキャンプをしたら、最後はみんな「楽しかった」と生き生きとした表情で帰ってくれて。その時に、キャンプは限られた人のためのものではなく、生きる人すべてに自然との関わりが必要で、キャンプをしてもらうべきだ、というアイディアが湧き上がってきました。

そして、都市生活をしていて、アウトドアを楽しみたいけど楽しめない人たちのハードルになっているもののひとつにファッションがあり、着るものってすごく大きい要素なんじゃないかと。そんな発想から、アパレル事業を立ち上げました。

確かに、当時のキャンプのファッションは、いかにもアウトドアという感じだったかもしれませんね。

ファッションがアートや音楽を知るきっかけになるように、キャンプでも、それこそ生産先のことを知るきっかけにもなり得るので、とても大きな力を持っていると思います。これは、スノーピークでは自分にしかできなかったことなので、新規事業としても貢献できたと思います。

フラットな視点が新しい価値を生み出す

オフィスは若い人が多く、フリーアドレスで、クリエイティブな空間という印象です。従業員の意見などは、どのように集約されていますか。

今、海外展開している国としてはアメリカ、韓国、台湾、ヨーロッパの4拠点。国内と合わせて700名弱の社員が働いていて、平均年齢は34歳です。私も今年でちょうど34歳になります。

毎年、未来を担っていく人材の採用強化に努めていますし、2020年からは未来開発本部という部署で、私もチームの一員として取り組んでいます。ただ単純にプロダクトを開発するだけではなくて、プロダクトの先にある体験を開発し、体験していただくことによってよりよい未来をつくる、というのが部署のミッションです。

あとは、2018年私が取締役職に就任した際に、年に2回の社員総会「All Snow Peak Camp」「Snow Peak Next Way」をスタートさせました。社員一人一人から、スノーピークらしさは何か、未来に向かっていくスノーピークの姿とは、などの言葉を吸い上げて、来年の経営方針に落とし込んだり、未来につながる事業展開に反映したりしています。

父の代は強いリーダーシップとカリスマ性で会社を30年引っ張ってきたのですが、私は今いる700名の社員全員の、一人一人の主体性によってスノーピークの経営を未来につなげていきたいという思いがあります。

社長が、社員全員とコミュニケーションを取っているのはすごいですね。

全員と一人一人でというのは難しいですが、子どもの成長はどうかとか、最近変わったことがないかとか、日常的な話から会社の未来まで、幅広くコミュニケーションを取らせていただいています。

スノーピークのファミリーのような空気は、そこからも生まれているのかもしれないですね。

もともとすごくファミリー感が強い会社で、年に30回近く、ユーザーさんと一緒にキャンプ楽しむ「Snow Peak Way」などのキャンプイベントを開催しています。今はコロナ禍で開催が難しくなっていますが、毎回一会場で約300名のユーザーさんが参加していて、私も毎年数会場参加しています。

約20年もの間、キャンプイベントを運営するなかで、オフィスで働いている以上に社員エンゲージメントも高まっていると思いますし、ファミリー感の強い、横のつながりが強い企業文化としてはこれからも大事にしていきたいところですね。

「Snow Peak Way」は、どのようにして始まったのでしょうか。

先代の祖父が亡くなった年から4期連続で売り上げが落ちてしまったのが契機ですね。根本から問題を見直して解決しなければ、という時に、やっぱり消費者、ユーザーさんとの直接のつながりが、これからのスノーピークに必要だというところに立ち返りました。

今のスノーピークは、直営店で直接ユーザーさんにお届けする形態と、アウトドア専門店さんやスポーツ専門店さんに卸して、販売はスノーピークの社員が行うという、インショップの形態を取っていますが、以前はほとんど問屋卸しで、ユーザーさんとの関わりがなかったんです。

そこで、問屋さんとの付き合いは全て断ち切って、直接の販売にシフトしていきました。製造メーカーと、実際に使っていただいているユーザーさんが直接つながって、スノーピークの製品に対するフィードバックをいただく。そして、スノーピークのオートキャンプカルチャーを啓蒙していく、この2つを目的として、「Snow Peak Way」を立ち上げました。

他に、スノーピーカーと呼ばれるスノーピークのファンたちとつながるイベントはありますか。

ポイントカードシステムで累積購入金額100万円以上のお客様をHQにお招きするイベントと、あとは、年に2回雪峰祭(せっぽうさい)というイベントを開催しています。

雪峰祭のメイン会場は新潟のHQですが、毎回2日間で6〜7千人ほど、地域の方と全国のユーザーさんに集まっていただいています。地域の飲食事業者さん、事業者さんによるワークショップも開催し、地域とユーザーさんをつなげる活動にもなっていますね。

日常と自然との距離をゼロにする

今後の展望や、夢などをお聞かせください。

コロナの影響でアウトドアが注目されたこともあり、2020年度の業績もかなり良かったですし、今年2021年の第一四半期も、昨対160%ほどの伸びを実績として出しました。スノーピークが今まで展開してきた衣・食・住を包括しているキャンプ事業ならびに、自然指向の働き方や地方創生事業が、このパンデミックをきっかけに、よりスタンダードになっていく実感があります。

これは一過性のブームではなくて、本来必要なものにみんなが気づいたということだと思いますね。新潟にいると、当たり前のように自然があって、人との距離や自然との距離の近さを実感できますが、文明都市というのは自然から遠ざかりすぎてしまったと感じています。

今までキャンプは、週末のキャンプという、ある種のアクティビティとしての認識が強かったと思いますが、今展開している“衣・食・住・働・遊”の5つの事業軸をもって、365日の自然指向のライフバリューをしっかりと、より多くの人に届けられるように、企業として成長していきたいと思っています。

あとは、生きるためには「学ぶ」の分野も必要だと思っていて、野遊びを義務教育に入れたいという野望があります。

NPOなど、自然の中で幼稚園を開いているところも少しずつ増えていますね。

最近、30代の若いファミリー層のユーザーさんも増えているのですが、大都市だと、家がオール電化で火を見たことがない、土を触ったことがない、というお子さんがたくさんいらっしゃるんですね。

人の生活は人の近くにあるべきですし、自然の上に成り立っているという、自然の重要性に気づく大事なタイミングが幼少期だと思います。私も、小さい頃からキャンプに慣れ親しんでいなかったら、ここまで環境やその背景にある人の問題に着手することもなかったかもしれません。

未来につなげるために自然のことを知るのは重要なことだと思いますし、キャンプは今後も、そのきっかけになっていけると思うので、より多くの人にスノーピークの価値を伝えていきたいと思います。

最後に、夢を持つ若い人たちへのメッセージをお願いします。

私が一事業を成功させられた大きな要因は、応援してくれる仲間と、チャレンジさせてくれた父の存在がとても大きいです。やっぱり、自分が活躍できる環境づくりは大事だと思います。

事業や企業を創業することは、決して一人の力ではできないことだと思いますので、何かを志す人は、その次に、自分のことを応援してくれる人を見つけて、価値を最大化するために頑張ってほしいと思います。

インタビュー:2021年7月

Information

株式会社スノーピークキャンプ・登山・アパレルを中心としたアウトドアブランド「Snow Peak」を展開。ハイスペックな製品群は国内外で高く評価されている。アウトドアの知見を活かし、キャンプイベントやレストラン、グランピング、キャンピングオフィスなど、さまざまな体験事業も提供している。

〒955-0147 新潟県三条市中野原456
TEL:0256-46-5858
URL:https://www.snowpeak.co.jp

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