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column 10

株式会社トップカルチャー2021.05.01

必達の精神で、新たに
地域との繋がりを模索。

日常にエンターテイメントを提供すべく、新潟県を中心に東北・関東圏へ「蔦屋書店」を展開する株式会社トップカルチャー。電子書籍やストリーミング配信サービスが一般化し、人々の暮らしも変容を続ける今日、清水社長が見据えるものとは。その足取りから、時代に合わせて企業の在り方を変える術について探る。

清水 大輔(しみず だいすけ)1984年生まれ。幼少期を地元新潟市で、青年期を東京で過ごす。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、楽天株式会社(現楽天グループ)へ入社。その後ボストンのハルト・インターナショナル・ビジネススクール、株式会社メディアドゥホールディングス(現メディアドゥ)を経て、2019年に家業の株式会社トップカルチャーへ入社。2021年1月に代表取締役社長COO兼営業本部長に就任。

当たり前に身近にある存在へ

まずは、御社の事業内容を教えてください。

弊社の事業は大きく分けて、蔦屋書店事業、スポーツ関連事業、訪問看護事業、中古販売事業の4つから成り立っています。1986年、私の父であり現会長の清水秀雄が、父のお兄さんが経営している「(株)ひらせいホームセンター」から独立し、新たに設立したのが現在のトップカルチャーですね。

日々の生活の基本である衣食住に加えて「本を読む」「映画を観る」「音楽を聴く」のような「楽」「学」「遊」のエンターテイメントに日常的に触れ合う機会を提供したい。それによって、一人ひとりの暮らしをより豊かにしていきたい。そうした思いで創業に至り、蔦屋書店事業をスタートさせました。

その他の事業については?

スポーツ関連事業については、サッカーのアマチュアリーグに所属する「グランセナフットボールクラブ」を中心に、サッカースクール事業、グランド運営事業、保育園の運営事業を行っています。また訪問看護事業としては、新潟市・長岡市に「脳とこころの訪問看護ステーション」を設置。精神疾患や認知症を抱えた方やそのご家族に向けた、心身のサポートを行っています。

弊社事業を通して、お子様からご年配の方まで、どんな境遇にある方も、よりよい日常生活が送れるようなサービスを提供したい、という思いから成り立っています。

物を買っていただく。スポーツを学んでいただく。体験していただく。楽しんでいただく。お客さまの日常のさまざまな場面に、私たちは「当たり前に身近にある地元のお店」としてお力添えしたい。そして、できることなら最期の瞬間まで末永くサポートしたい……といった願いからスタートした一連の取り組みですね。

昨年11月には、蔦屋書店 河渡店(新潟市東区)にコワーキングスペースがオープンしましたね。

はい。シェアラウンジ「CROSS lounge+」です。木のぬくもりを感じられる落ち着いた空間に、フリードリンクや貸会議室(有料)を備えました。書店内の本を3冊まで持ち込めるほか、菓子類やパンなども販売していますので、おうちのようにくつろぐことも、仕事や勉強に利用することもできます。

「商品を提供する」従来のスタイルから、「空間・体験を提供する」方向性にシフトしていきたいと考えています。腰を落ち着けてインスパイアできる場所、家族で休日を楽しめる場所などを提供することが、これから先、付加価値になっていくのかなと思って展開をしております。今後も新潟だけでなく、他県にも拡げていきたいなと。

すべきことは、自分の意志が決める

創業当時2歳だった清水社長。先代の背中を、子ども心にどう見ていましたか?

実はあまり、父が仕事に取り組む姿を目にした覚えは無いんです。ごくごく普通の父親だったと言いますか、家族でご飯を食べに行って、旅行に行って、授業参観に来てくれて……みたいな。

強いて言えば、初めて会った方にキチンと挨拶するとか、何かしていただいたらキチンとお礼を言うとか、そういった礼儀に関してすごく厳しかったなという印象はあります。

ただ、今思うと小さい頃から、蔦屋書店にはよく連れていかれたな、と。その際父は、例えばちょっとしたゴミを見つけたら絶対に拾うとか、車は一番遠くのスペースに停めて歩くとか……とにかく他のお客さまに、少しでも気持ちよくご利用いただけるように行動していて。

今、僕自身が当たり前にそういったことを実践できているのは、経営者としての父の態度を多少なりとも肌で感じていたからかもしれないですね。

「もしかして後を継がなきゃなのかな…」と考えることも?

小学校高学年くらいの頃は、家業というものが少しずつ見えてくる時期ですし、何となくは考えていたと思います。ただ、中学卒業と同時に新潟を離れて、父と過ごす時間も減り、次第に「自分がトップカルチャーをどうするか」とは特別意識しなくなっていったかな……。事業承継を本格的に検討し出したのは、それこそ大学卒業の直前とか、ないしは社会人になってからかもしれないです。

大学卒業後、楽天に入社したのも事業承継を前提に考えてのこと?

選択肢のひとつとして、トップカルチャーに何らかの形で関わる可能性は、ぼんやりとですが想定していました。その上で、やはり小売のお店を作っていくプロフェッショナルとして、父と同じことをやっても会社の成長には貢献できない。それよりも、トップカルチャーが現状カバーできていない領域に挑戦すべきだなと考えたんです。

まずはEC販路の整備。次に海外展開。もうひとつあるとすればファイナンス系。この3つに関してぜひとも勉強しておきたい。その中でまずはEC販路の勉強をしたいと思い、ECサービスで急成長中だった楽天を選んだという感じです。今も変わっていないとは思いますが、当時は本当に勢いがあって、若いうちからドンドンと挑戦をさせてくれるという環境が整っていたので、この環境の中で働いたら成長できると感じ、最終的に入社を決意しました。

「これは」という楽天時代の学びなどがあればお聞かせください。

結果的に一番良かったと思うのは「マインド」。楽天の創業者、三木谷浩史さんから学んだ「必達マインド」です。当時はとにかく、どんなに厳しい状況に追い込まれても「できない理由より、できる理由を考えろ」と教えられました。今のご時世に推奨できる働き方ではありませんが、多くの同期とマインドを共有し、一緒に仕事へ向き合ったことで、現状に対峙しやり抜く徹底力を育てていただいたのかなと感じています。

その他、トップカルチャー入社までの10年間で印象的だった経験は?

やはり、特に大きかったのはMBA留学。これをなぜ敢行したかなんですが、楽天で働いていて、ふと「結局僕、会社から言われたことをやっているだけだな」「楽天という看板を取ったら自分には何が残るんだろう」と不安に思ったことがありまして。

日々の業務的なチャレンジだけじゃなく、MBAという新しい領域で、苦手だった英語の克服も兼ねてビジネスの勉強をしたら、自信に繋がるんじゃないかと考えたんですね。当時は全く英語ができず、TOEIC400点くらいからのスタートだったので、少しでも英語に触れたことがある方は、この点数でよくMBA留学を考えたな、と感じると思います。

実際に留学してみると、想像以上に自分のスキル、ノウハウが足りず、また非常に偏りがあるなど、改めて自分の未熟さを痛感しました。けれども、結果としていつか学びたいと常々思っていたファイナンスの知識に深く触れ「ああ、これは特に自分に足りない知識だな」と新しい課題と目標を発見することもできました。

そのため、帰国後は楽天時代の上司がCFOをやられていた会社で、コーポレート・ファイナンスとかM&Aといった仕事に携わらせていただきました。

何年後までに何を達成したいか、というところから逆算してスケジュールを立てて、自分の意志でキャリアを作っていく。海外留学をきっかけに味わうことができた一連の経験は、たいへん貴重なものだったと思っています。

信念を守るため、自ら変化する

社長就任の前後で、心境の変化などはございましたか?

それがですね、全く変わってないんじゃないかなと。というのも、入社した時点である程度、1年目に何をやる、2年目に何をやる、3年目に、4年目に……といった自分なりの計画は定めていたので、肩書が変わったとしてもやるべきことは変わらない。突っ走っていくしかないかなと。ですので心境に大きな変化はなく、改めて「やるべきことをしっかりやらなきゃな」と、兜の緒を締め直したくらいのものです。

トップカルチャー入社当時すでに、大まかなビジョンがあったのですか?

直近のビジョンは大きく分けて3つ。一つ目が、弊社の売上の中核を担う「出版業界構造の再構築」。もともと2万5000店ほどあった全国の書店が、この十数年で1万5000〜1万6000店ほどにまで数を減らしています。このシュリンクビジネスの渦中にいる者として、一体何が起こっているのか、もっと改善できることはないか、考えなければならない。

出版業界が直面している構造的な問題に対して、いち事業者の立場からできることを見つけ、一つずつ実行していくことが大切だと思っております。ある意味、誰も問題を解決できていない業界ですので、非常にやりがいのあることだなと感じております。

二つ目が、「地域に喜ばれる小売の再定義」。ただ単に商品を仕入れて売るということに終始するのではなく、いかにして来店いただくお客さまに付加価値を提供できるのか。デジタルな技術とコラボしていくことも大切ですし、体験型のお店を構築することも大切だと思いますし、実験的なチャレンジを重ねていこうと考えています。

三つ目が、そうした中でやはり「自社の企業価値を向上」させていきたい。弊社は上場企業ですので、やるからには時価総額を上げる努力を継続しなければならない。現状の課題を理解し、改善し、そして未来のために成長戦略を描き実行する、その繰り返しを行うことで企業価値を向上させていきたいと考えております。

今後の具体的な方針については?

これは恐らく、ハードオフコーポレーションの山本太郎さんも同じことを言っていたかなと思いますが「不易流行」っていう言葉がキーワードになるのかなと。経営者として変えてはならない部分と、時代に合わせて変えなければならない部分が、企業にはあるという考えですね。

弊社における「変えてはならない部分」というのは、まさしく「日常的にエンターテイメントを提供する。そしてその結果、地域の皆さま一人ひとりの暮らしを豊かにする」という信念。そしてそれを守るためにこそ「変えなければならない部分」がある。提供するサービスの内容を変え、提供する方法を変え、時代に合わせた形態へと自身を変えていかなければなりません。

DVDを借りてくる時代から、自宅でNetflixやAmazonプライム・ビデオなどを利用する時代に変わりゆく中で、それでも店舗に足を運んでもらうためには? 具体的な方策として今取り組んでいるのは、地域ごとの特性を活かした「店舗のローカライズ」です。

これまでの画一的なチェーン展開から一手進めて、同じ蔦屋書店でも、店舗ごとに特色を出していきたい。去年チャレンジした一例を挙げるなら、地元のお米屋さんにオリジナルのブランド米を作っていただいて、海苔、塩、中に入れる具材をセットで販売した「蔦屋書店のおにぎりフェア」。

これはあくまで一例ですけれども、そうした地域との連携を念頭に置いて、その店舗でしか味わえない魅力みたいなものをドンドンと高めていくことで、「あそこの蔦屋書店行ってみようか」「あの店舗にも行きたいな」みたいな流れを作っていけたらなと考えているところです。

新潟にもっと「チャレンジ」を

それでは、少しプライベートの話を。余暇の過ごし方をお聞かせください。

唯一仕事のことを忘れられる時間といえば、やはりアルビレックス新潟の試合観戦。子どもの頃からずっと、もう20年近く応援しているので、本当にもう生活の一部と言いますか。試合に負けた日は僕も落ち込んじゃって、必ずしもストレス解消になっているかと言われれば、正直微妙なところですが。

スポーツチームの勝敗は、大げさじゃなく地域の経済さえ左右しますからね。

新潟は特にそうだと思いますね。新潟の経営者陣って、みんなアルビ好きですし。僕も根っからのサッカー少年で、大学を卒業するまでずっと続けていたんですよ。高校進学時に新潟を離れたのも、サッカーが強い学校に行きたかったからでして。

当時、新潟のサッカーはレベルが低かったのですか?

低かったですよ。サッカー不毛の地なんていう風に呼ばれていました。それもあって、チャレンジ意欲のある若者は県外の高校に進学してしまう。有望な選手がどんどん流出し、新潟は一生強くならない……。そんな悪循環の中にあった新潟を変えたいという一心で、今のグランセナがあるんです。

グランドがない。優勝経験のあるコーチがいない。そういう問題点を一つずつ解決していって、全国に並ぶような環境を誰かが整備したら、新潟のサッカーは強くなるだろうか。それも一つの地域貢献になるだろうか。そんな発想からグランセナの活動をスタートさせました。

今では新潟サッカーのレベルアップも随分進み、嬉しい限りです。去年、第98回全国高校サッカー選手権大会で、帝京長岡高校が全国3位になりましたけれども、当時からしたら到底考えられないほどの大躍進なんですよ。

未来のサッカー少年にとって、新潟を「チャレンジできる場所」に変えたわけですね。

これはサッカーに限らず、新潟のあらゆる側面に対して言えることだと思うのですが、「新潟には意外とチャレンジの場所がある」という事実が、あんまり知られてないのかな、と思っておりまして。「新潟には選択肢なんてない」と決めつけて、東京に出ていく若者たちに対して、各々が伝えられることって、実は身近にたくさんあるんじゃないかな。

もちろん、東京にやりたいことがあるなら、東京に行けばいいと思うんです。僕はたまたま父の会社という縁があり、そこでできることと、僕がチャレンジしたかったことが一致した。だからこうして新潟にいますが、これが仮に東京にあったとしたら、僕は東京で働いていたでしょうから。多分、自分がやりたいことをできる場所にいるのなら、それが一番だと思いますよ。

若者がより自分に合った選択をできるようにするためにも、「新潟にはこんな舞台がある」という情報のさらなる発信が必要ですね。

それは本当に思いますね。先に申し上げたような弊社のビジョンに、もし何かピンと来る方がいるのなら、ぜひ弊社で実現に協力してほしいと心から思っています。他のあらゆる企業にも、それぞれに思い描くビジョンがあるでしょうから、それらがもう少し上手に伝わっていくといいのだろうなぁと感じます。

では最後に、若い世代の読者へ向けてメッセージをお願いします。

これも楽天時代に叩き込まれた教えですが、「仮説→実証→検証→仕組み化」のサイクルをなるべく早く回していきましょうと、これから社会に出る(または出たばかりの)皆さんにはお伝えしたいです。チャレンジしないと分からないことは、さっさと試してみるのが一番。

「とりあえずやってみる」というか「やりながら考える」スピード感というものは多分、どんな立場にあっても、どんな年齢になっても、誰もが持ち続けなければならないもの。僕自身も、弊社の社員も、未来の仲間になるかもしれない若い人たちもそう。これだけは是非どこかで、自分の意志でチャレンジを試みてほしいですね。

インタビュー:2021年3月

Information

株式会社トップカルチャー蔦屋書店のフランチャイズ運営による書籍・文具・生活雑貨の販売と、音楽・映像コンテンツの提供等を通じて、人々の「衣・食・住」に「楽・学・遊」を追加。豊かな暮らしの実現をミッションに、多角的な店舗やサービスの開発・運営を行う。

〒950-2022 新潟県新潟市西区小針4-9-1
TEL:025-232-0008
URL:https://www.topculture.co.jp/

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