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column 12

株式会社越後薬草2021.08.02

上越発のクラフトジンが注目を集めている。ジンとは、ジュニパーベリー(ねずの実)を主とした香草や薬草で香りづけされた蒸留酒。製造しているのは酒造メーカーではなく、健康食品メーカーとして知られる株式会社越後薬草だ。なぜ、異業種から酒類事業を始めることになったのだろうか。そのターニングポイントを塚田社長に伺った。

上越から人々を健康に。
野草と発酵のエキスパート。

塚田 和志(つかだ かずし)1989年生まれ。新潟県糸魚川市出身、新潟ビジネス専門学校卒。2019年、家業の株式会社越後薬草を継ぎ、若き2代目社長となる。2020年、新たにスピリッツ・クラフトジンの製造から販売、ブランディング、マーケティングを一貫して行う社内ベンチャーを立ち上げる。

健康をテーマに野草を研究

まずは、御社の事業内容を教えてください。

当社は上越という地で、45年間健康食品をつくってきました。主力は、ヨモギなどの野草を中心とした80種類の複合原材料を煮出して、酵母菌・麹菌・乳酸菌などの糖類を加えた発酵飲料、いわゆる酵素を利活用した商品を扱っています。上越地域はヨモギが多く自生し、お灸に使用されるモグサ(ヨモギの葉の裏の綿毛が原料)は全国の9割をシェアしています。雪がたくさん降るので、すごく良質なヨモギが取れるんです。

上越市は、夏は高温多湿、冬は雪により低温多湿という、発酵に適した気候。
あえて温度管理はせず、いわゆる「なりゆき温度」で発酵・熟成させる。
健康食品づくりを始めたきっかけは?

先代の父が、あるコミュニティのなかで健康維持・健康補助という観点から酵素をつくって欲しいという依頼を受けまして。そのコミュニティ内でたしなむレベルでつくっていたのが、欲しいと言う人が増え、商業ベースで生産するようになった、というのが始まりですね。

今では、本格的な酵素研究も行っているそうですね。

酵素ってそもそも、食品でもない、薬でもないすごくボンヤリしたもの。医療じゃないので、正直エビデンスを取る必要はないんです。ただ、先代が「そうじゃない」と。「これだけ薬草を使っていて、健康効果が出ないわけがない」と言って、いろんな大学と共同研究をして、今でも年間数百万円という大きいお金を酵素研究に注ぎ込んでいます。

ちゃんと根拠があれば、お客様に資料も提示できるし、私たちも自信を持って営業できる。そういうメーカーって全国にないんです。だから業界的には、「変態的な企業だね」とよく言われますね。

先代の遺志を継いだ『YASO』

健康食品以外では、どのような事業を?

酵素を入れた『まいキムチ』というキムチの事業、あとは酒類事業。『YASO』というブランドで、酵素の製造過程でできたスピリッツ・ジンを販売しています。

『YASO』のネーミングは、野草を中心に80種類をベースとしていることから、“80(やそ)”と“野草”の響きにかけて。
バージョンによって原料が異なり、ラベルの数字は原料の数。
元日に発売された2021年限定モデル『YASO GIN』は即日完売でしたね。「これは商品化できるな」と思ったタイミングはいつだったのでしょう?

まだ先代の頃ですね。私たちが販売している酵素は、80種類の複合原材料をアルコール発酵させ、もう一度鍋で煮て、アルコールを揮発させたもの。アルコールをさらに効率よく飛ばそうと、2018年に蒸留機を導入したら、自然と蒸留酒(スピリッツ)が生まれたので、これを販売しようとしたのが始まりです。

一番最初は自社でお酒は販売せず、他社の酒造メーカーに原料として買ってもらうつもりでした。それがなかなかうまくいかないうちに、先代が急に亡くなってしまいました。

通常お酒って、日本酒、米焼酎、芋焼酎、麦焼酎とか、米や麦などの単体の穀物を主体とした醸造酒や蒸留酒。80種類の原料を使った蒸留酒なんて、この世にはなかったものですから、「そんなものは原料として扱えない」と、酒造メーカーに行っても門をまたがせてもらえない。そんな状況が3カ月くらい続きました。

「ここに受け入れてもらえなかったら、もうこの先ない」と思いながら最後に行った薬草酒メーカーでも、感覚的に「これはダメだ」と。帰りの車の中、「これはマズイぞ」という空気になったその時、なんとなく父が「人に売るな、自分たちで売れ」と言っている感じがしたんですよね。

そして、私たちが取ろうとしていた酒類製造免許は、スピリッツの製造免許。ジン、ウォッカ、テキーラ、ラムの4種類が世界4大スピリッツと言われていますが、私はジンをつくると決めました。

それはいつ頃のことでしょうか?

2019年の夏の終わりぐらいです。車に同乗していた製造チームに話したら、「ジンですか!?」という反応で(笑)翌日、緊急の全体集会を開いてスタッフに話した時も、ざわつきましたね。

私はバーにも行ったことはないし、ジンもジントニックも飲んでいなかった。でも、自社でお酒をつくって売ると決めてからは全ての歯車が合って、いろんな方に縁がブワーっと広がっていったんですよね。ジンをつくるという決断が、ターニングポイントだった気がします。

ネガティブ(他社に買ってもらう)なスタートから、ポジティブ(自分たちで売る)なスタートに変わったということですね。周りはどんな反応でしたか?

正直、初めは「国内でジン!?」という感じですよね。「新潟県は日本酒の県だ」「洋酒でよく分からないジンなんて、売れるわけがない」と、言われ続けました。どんなことも、一番最初の人って理解されないものだと思います。私もできるか分かりませんでしたから。でも、ある程度はノイズと割り切ってしまって、自分たちがやると決めたことを徹底して、勢いで進めたという感じですね。

コロナが追い風になったということもあるのでしょうか?

追い風か向かい風かは正直分かりませんが……。私たちが商品を発売した2020年2月13日というのは、実は、先代が亡くなった1年目の命日。まず、その日に合わせて短時間でつくることができたということがあります。

私がスタッフにずっと言っていたのが、「私たちはものづくりをする会社だよ」ということ。キムチや健康食品の事業もあるけれども、“何屋”じゃない、と。だから、酒類事業をすると決めた後も、スッと入ってきてくれたんだと思います。

当初は見本市に出して、バイヤーさんとご縁をいただいて、商品を卸していくつもりでした。でも、発売のタイミングでコロナがぶつかってしまった。お酒の販売販路も全くない中で、オフラインが閉ざされてしまったんです。

なので、一部の商品は卸して、後は私がずっと興味を持っていたSNSという世界でDtoCを行なっていくという方向に舵を切りました。

先代はOEMやPB……外部の会社から委託された商品をつくる事業を主にやっていたのですが、私自身は専門学生時代から、自分たちの商品を自社で販売するDtoCの事業、あとはネット通販、テレビ通販の事業に参入していきたいと考えていたんです。

オンラインでの販売があってこそ、広まっていった面もあると思います。そこから、アルコール消毒の分野にも入っていかれましたね。

高濃度アルコールの『YASOアルコール70』ですね。当時、マスクも手指用の消毒アルコールもすごい勢いで購入されて、市場から姿を消したじゃないですか。その時に、私たち企業ができることはないか考えていまして。

でも、酒類用のアルコールを手指用の医療用アルコールとして販売することはできなかったんですよね。ただ、規制緩和が絶対来ると信じて、商品をつくり続けていました。そうしたら、国税局が特例として緩和の処置を出したんです。

商品の設計は既にできていたので、どこよりも早く販売することができ、地域の方たちからも「ありがとう」の言葉を多くいただきました。あの時はみんなが苦しくて、私たちも決して楽ではありませんでしたが、やっぱり、上越という地で地域の方たちに愛されていきたいという思いがあったんです。

やりたい時にできないのが、地域貢献、社会貢献だと思います。だから、今は目先のお金を稼ぐフェーズではなくて、企業として「ありがとう」を稼ごう。そうやって動いたのが、この事業でした。

根底にあるのは、「ものづくり」

新潟県の中でも上越地方は発酵文化が盛んなまち。その風土や精神が、御社にも根付いているのでしょうか?

ありますね。上越は「発酵のまち」と市が掲げているくらい、醸造が盛ん。お醤油屋さんだとか、お味噌屋さん、お酒屋さんがすごく多い地域です。私たちは特殊になりますが、野草を使った発酵飲料をつくっているので、常にそれは意識していたいところではありますね。

社長は、高校卒業後は新潟市内の学校に進学されています。上越と離れて、感じるものはありましたか。

新潟ビジネス専門学校というNSGグループの専門学校に入り、情報系、簿記、事務的な勉強をして、ビジネスの基礎を学びました。正直、大学に行きたい気持ちも心の中にはあったのですが、多分、自分は誰よりも臆病で。新潟県を出るということができなかった。今考えれば、もっと行けば良かったと思うんですけどね。

上越を離れることによって、地元への愛を一番感じましたね。地元に戻って、地元で何か仕事をして、しっかりとした雇用を生む。それが究極の地域貢献、社会貢献だ、とはその時から思っていました。

社員教育はどのように行なっているのでしょう?

特に何かやっているわけではないのですが……今はスタッフが50名、平均年齢が29歳という、かなり若い会社ではあります。私が平成元年生まれなので、自分よりも下の世代が平均年齢。なので、コントロールするのが意外と難しかったり、逆に、年齢が近いからコミュニケーションが取れてスムーズにいったりすることもありますね。

この上越の地で一生生活していく方たちがほとんどなので、ほかの同年代よりもちょっと特殊なこと、楽しいことをしているというワクワクは、常に与えたいと思って経営していますね。

若手が多いということで、若い発想によって会社が活発化しているのでしょうか?

ミーティングはすごくしていますね。私はある程度、ものづくりのラインは引きますが、「あとは自由にやって」と、全て任せています。この前びっくりしたのが、たまたまTwitterを開いたら商品のプロダクトミーティングをやっていたんですよ。若い子と上司が「これ明日買って行っていいですか」「あ、いいですよ」、みたいな。翌日会社に行ったら、上司が私のところに来て、「〇〇の商品つくっていいですか」と言って来て。「いやSNSで見てたよ」「マジですか」……そんな感じでやらせていますね。

すごくスピーディーで驚きました。

そうですね。稟議を通して、社内でしっかり揉むのがいい場合と、そうじゃない場合があると思うんですよ。当社の場合は、その辺りは決定権を持たせて進めているので、かなりスピードは早いですね。

社長が考える「越後薬草らしさ」とはなんでしょう?

私たちみたいな酵素メーカーは全国に20社くらいあります。お酒メーカーもかなりの数がある。その中で私たちらしさというのは、「お客様のニーズに応える」ということ。

先ほど説明したように、私たちは“何屋”ではなく、なんでもやる“何でも屋”。ものづくりというのが、社内の共通のコンセンサスとしてあるんですよね。

なので、お客様に「つくって」と言われたものを、スムーズに潤滑に、本物志向でしっかりとつくり上げるというのが、私たちの会社のやり方です。

スタッフも毎日自社商品を飲んでいると伺いましたが、「本物志向」につながるのでしょうか?

やっぱり、自社の製品をスタッフが誰も買わなかったら寂しいじゃないですか。本物の定義はいろいろあると思うんですけど、私はシンプルに、「会社に勤めてくれているスタッフの方たちが買ってくれる商品」。これが、本物なんじゃないかと思います。

自分を信じて突き進む

今年、2021年でちょうど創業45周年。何か特別に展開することはありますか?

これからも新潟で事業を続けていく上で、スタッフにも新潟をもっと愛してもらいたいという想いを込めて、アルビレックス新潟とクラブオフィシャルパートナー契約を結びました。

私自身、サッカーはもちろん、野球や格闘技などのスポーツ観戦が好きだったんですよね。将来的には、スタッフと一緒にビッグスワンのピッチで記念撮影したいです。

今後の夢などがあれば、教えてください。

最終的なゴールは、この上越にいる市民、ひいては新潟県民の方たちに、「ありがとう」と言ってもらうことですね。それが何かというのはまだ見つかっていませんが、地元をしっかり愛しながら、地に根付いた企業でありたいと思っています。

ただ、それだけでなく、今いる若いスタッフと一緒に世界を目指していきたいと思っています。

では最後に、夢を持つ若い人たちに向けてアドバイスをお願いします。

私は急なタイミングで事業継承をすることになってしまって、同じ立場だったら、多くの方は悩むと思います。でも、悩みは結局解決しないから悩みなんですよね。悩んでいる暇があったらどんどん動いて、前に突き進む。若い人はそれができると思いますし、やりたいことがきっとあると思うので、真っ向勝負で良いんじゃないかなと思います。ロジックじゃなくて、感覚、感性で。そこが消極的なのが新潟県民の特徴でもあるのですが。

私たちは「あそこは何をやっているんだろう」「薬草屋じゃないのか」とよく言われますが、「いや、そんなことないよ」と。キムチもつくるし、お酒もつくるし、主力事業の薬草を使った事業もする。でも、お客様が求めているものをつくるのが、会社の意義ですよね。

私たちがジンを始める時に、周りの人から批判があったように、新しくやろうとすること、新しくしようとする人は、批判の的になると思います。それはある程度のノイズだと思って、自分がやりたいことに対してただただ突き進む、それだけだと思います。

インタビュー:2021年6月

Information

株式会社越後薬草
昭和51年に新潟県糸魚川市筒石で創業し、昭和55年に上越市小猿屋に社屋を移転。ヨモギを主とした野草類の力と、独自の発酵技術を活用した健康食品を開発・製造販売する。代表商品は、80種類の原料を1年発酵・熟成させてつくる『野草酵素萬葉』など。

〒942-0055 新潟県上越市小猿屋73
TEL:025-544-3050
URL:https://echigoyakuso.co.jp

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