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column 8

フラー株式会社2020.12.01

今、地方で起こるべき
変革の機運について。

2020年6月、千葉県柏市に本社を構えるIT企業「フラー」の若き創業者が、故郷である新潟に移住。同年11月には新潟支社に本店機能を移し、二本社体制となった。コロナ禍によるビジネスのオンライン化を受け、いち早く行動を起こした渋谷会長にインタビュー。地方都市にいがたの課題と展望が見えてきた。

渋谷 修太(しぶや しゅうた)1988年生まれ。新潟県佐渡市出身。国立長岡工業高等専門学校を卒業後、筑波大学へ編入学。グリー(株)を経て、2011年フラー株式会社を創業。有力経済誌Forbesにより、2016年の若き重要人物「30アンダー30」に選出された。2020年9月末日をもって会長職に就任し、社会全体を見据えた活動への注力を決意。ユメは「世界一ヒトを惹きつける会社」を創ること。

かつてない「地方回帰」への機運

まずは、御社の事業内容を教えてください。

事業は大きく分けてふたつ。ひとつは、スマートフォンのどんなアプリが、いつ、誰に使われたかという(テレビで言うところの視聴率)情報の収集です。集めたデータはアプリ開発会社さんなどに提供し、分析をお手伝いさせていただいています。これが「App Ape(アップ・エイプ)」という自社サービスになります。

もうひとつは、集積したデータをもとに、今度は自分たちでアプリを作ろうというもので、2017年より始動しました。いろんなお客さまと組んで、モバイルシフトをご支援するということで「アプリの共創事業」と呼んでいます。

2017年というと、旧新潟支社を立ち上げたのと同時期でしょうか?

そうですね。ちょうど新潟ベンチャーキャピタルさんから出資を受けて、地元にもオフィスを出そうと。正直、最初は「新潟でIT 系の人材採用できるかな」って、すごく不安だったんですよ。

でも、立ち上げてみたらちゃんとニーズがありました。おそらく「進学を機に上京し、都内IT企業に就職。やがて結婚・出産を迎え、地元に戻りたいと思うようになった人たち」の受け皿が、これまで新潟には不足していたんでしょうね。

2020年6月には、渋谷会長ご自身も新潟へ移住。多くのメディアが取り上げていましたね。

ええ、自分でもビックリするくらい……。普通に引っ越しただけなんですけども(笑)。やはりコロナ禍という、「仕事って実はどこでもできるんだ」的なメッセージがクローズアップされていたんだと思いますよ。

今年、多くの人が自分の生き方について考えたと思うんです。その結果、地方への移住者が増えてるというのは、少なくとも新潟県にとってチャンスなんじゃないのかな。100年に一度あるかないかってレベルの地方回帰の流れが、まさに今起きているんだと思います。

旧新潟支社の様子。創業9周年となる2020年11月15日、オフィスを移転し「新潟本社」として再出発。
新しい生活様式を地方に求める人が増えているんですね。久々の新潟生活はいかがですか?

新潟って、西日が海に沈むじゃないですか。ぼく、昔カリフォルニアに住んでいたことがあって、西海岸に沈む夕焼けがすごく好きだったんですが、東京だと見られないんです。新潟市は海も近いので、仕事帰り、浜辺で夕暮れ時を過ごすと落ち着くというか。ジーンと来るんですよね。

そういう新生活の様子をSNSにアップすると、ものすごい反響があって。人間誰しも、心の奥底では自然に対する強い欲求を持っているんですよね。だからむしろ、今どきは地方にいた方が、充実した働き方ができるんじゃないかなぁと思います。

故郷という存在が私たちに及ぼす影響には、無視できないものがありますね。

そうですねぇ。おそらく「故郷にいること」自体が本質的な自己表現に繋がっているといいますか。自分の行為にストーリーが発生しやすくなる気がするんですよね。生まれって、変わることのないアイデンティティですから。

さらに、もう少し個人的な話をすると「匂い」かな。田んぼの匂い、海の匂い……。そういうのって強く記憶に残るじゃないですか。見過ごしがちだけど、地元でしか得られない貴重なインスピレーションのひとつだと思います。

若者が喜んで帰ってこれる故郷とは

逆に、新潟の現状に足りない要素は何か、ご指摘願います。

ひとつは「変化に乏しい」こと。周囲が成長する中での現状維持は、相対的な衰退なんです。キャッシュレス化を例にしても、現金がないとタクシー乗れないとか、お会計できないとか、少し前まで普通だったことが、普通じゃなくなってきている。にも関わらず、新潟だとまだまだと見ますよね。

仮に、現金しか使えない街Aと、キャッシュレス決済しかない街Bがあったとして、若者が住みたがるのって絶対にBなんですよ。これはもう変えようのない事実なので、本来は一刻も早くBを目指して行動に移すべき。東京に比べて、新潟県が明確に劣っている部分ですね。

そんな新潟を変えていくため、渋谷会長がチャレンジしてみたいことは?

まず、新潟県って起業率が非常に低いので、起業家を増やさなきゃいけない。これについては県知事も強く推進されていて、近頃は起業家の生まれる機運がかなり出てきたと思います。

そしたら次は、増えてきた起業家をちゃんと成長させて、会社が上場したり、事業が成功したりっていうケースを増やさなきゃいけない。最近立ち上げた「新潟ベンチャー協会」の活動などを通じて、そうした「起業家の育成」をライフワークにしていきたいと考えています。

一方で、やはりIT業界で10年生きてきた身としては、デジタル化のゆくえも大いに気になります。新潟がというより、そもそも日本全体が遅れている分野ですので、その必要性を訴えていきたい。欲を言えば新潟を、東京都よりデジタル化の進んだ県にしてみたいなぁ。

それはまた、壮大な挑戦ですね……。

まぁ、日本一とまで言わずとも、今述べた2点がきちんと伸びている県を想像してみてくださいよ。「テクノロジーが生活に根付き、起業家が活躍している県」って、すごく分かりやすく「若者にとって魅力的な地」ですよね。いずれ、何らかの理由で新潟に帰ってきたいと思った人たちが、喜んで帰ってこれる故郷にする。ひとまずはそれが自分のミッションかな。

シリコンバレーみたいな街、新潟

挑戦意欲のある若者は、どうしても都心に身を置く傾向にありますよね。

ぼく個人としては、若いうちに外の世界へ行くのは望ましいことだと考えています。ひとつの場所にずっといるだけでは、そこにある強みや課題に気づけなくなってしまうんですね。地元を離れて初めて、今まで当たり前だった風景が実はすごかったとか、逆にショボかったとかが見えてくる。

新しいビジネスは常に課題のある場所から生まれるので、挑戦したいと思う人ほどあちこちを飛び回るのは自然です。ただ、近年は「飛び回ること」がイコール挑戦だと捉えられすぎな傾向にあり、行ったら最後、人が帰ってこないのが問題なんだと思います。

行った先で経験を積んで、いろんなものに触れ、地元の良さを知り、戻ってきて何かを為す。それが一番の挑戦なんだっていうことを、近年は意識して発信するようにしているんです。「遠くに行くのが挑戦、戻ってくるのはリタイア」みたいなイメージを払拭したいので。

まさに渋谷会長が体現するような「若者像」が定着すれば、地方の魅力は大いに増していきそうですね。

そうですね。そしてゆくゆくは「日本海側No.1の都市 にいがた」みたいなポジションを確立したいです。ぼく「新潟をシリコンバレーみたいな街にしよう」ってよく発信してるんですが、つまりは都市としてのキャラクター性を確立したいよねってことでして。

アメリカの都市って、ちゃんとキャラクターの棲み分けができてるんですよ。ITの街といえばサンフランシスコ。エンターテイメントはロサンゼルス。金融といえば間違いなくニューヨーク。政治はワシントンDCで、娯楽はラスベガスって具合に、タグ付けがとにかく明快。

一方の日本はと言えば、ITは東京、エンタメは東京、金融は東京、政治は東京、文化もアートも全て東京……みたいな感じじゃないですか。これは何としても変えていかなきゃならない。

確かに。人口だけではなく、地域としての個性までもが一極集中していますね。

ですので、何かひとつ「新潟」という街のキャラクターを定め、世界に認知されるブランドに育てたい。必ずしもシリコンバレー(つまりITの聖地)である必要はなくて、燕三条の「ものづくり」かもしれないし、「スマート農業」とかね、そういうのかもしれませんけど、とにかく注目される街に。

最近、アメリカのデンバーという街が魅力を増していると聞きます。サンフランシスコやニューヨークの若者が、続々と移り住んでいるらしいんですね。自然豊かで、雪の降るローカルな地域なんですけど……ほぼ新潟県じゃないですか、それって。デンバーが今「来ている」ということは、新潟も「来る」んですよ。ロジックで言えば。

今まではぼくも、グローバル展開がしたかったら何かとニューヨーク行ったり、サフランシスコ行ったり、ソウルに行くよね、みたいな感じだったんですけど、今はそうじゃないぞと。「ローカル・トゥ・ローカル」の時代が来つつあるんですよね。

いち地方である新潟のビジネスが、どこか別の地方(仙台だとか、沖縄だとか、それこそデンバーとか)のお客さまやビジネスパートナーに届き、化学反応を起こすかもしれない。そういう「地方をテーマに、グローバルを考える」っていう試みも、長期的にはやりたいなと思っていますね。

常にブルーオーシャンへ

それでは、少し趣味の話を。
ご多忙かとは存じますが、余暇はどのようにお過ごしで?

都心にいた頃は映画観たり、ゲームしたり、読書したり。年間100冊くらい読むんですけど、とにかく結構なインドア派でした。でも、新潟に来てからはキャンプとか、海とか、アウトドアにハマりまして。「地球を味わう」じゃないですけど、以前より活動的なのに、むしろ心は休まるんですよね。

先程の話に戻りますが、シリコンバレーってニューヨークなんかに比べてめちゃめちゃ田舎でして。向こうのエンジニアやデザイナーは自然のある暮らしを大事にしていて、終業後にサーフィンに行く人もいれば、山に登る人もいるんだそうです。

新潟も、そういう「自然のそばで働き、自然と触れ合って生きる」みたいな暮らしにうってつけだと思うんです。多くの業種でそれを可能にするのがITの役割であり、ぼくの役割。いずれ、そういう生き方に憧れる人たちが、日本中から集まってくれるような場所にしていきたいですよね。

「新潟をシリコンバレーに」という言葉には、そういった意図も含まれていたのですね。次に、新潟の「これは!」という食べ物についてお聞かせください。

それはもう枝豆でしょうね、圧倒的に。枝豆とビールだけでずっとイケるみたいなとこあります。東京の居酒屋さんで食べるのと比べると、ビックリするぐらい違うんですよね。味と、あと量が。新潟って枝豆が何かめちゃめちゃ出てきますよね(笑)。

それをね、みんなに知ってほしいんですけど、どうにもね……。「日本酒でしょ」とか「米が美味いんだよね」とか、そのくらい表層的なものしか知られていない。まだまだいっぱい強みがあるのに、全然伝わってないなって、他県出身者と話しているとよく感じますよ。

新潟には、とにかく美味しい食べ物がありすぎますからね。

そうなんですよ。で、良いものがあるのに伝わらないのは何故だろうって考えたんですけど、思うに新潟って「何でもかんでも押し出そうとしすぎ」なんじゃないですかね。アメリカ都市群のタグ付けの話と一緒で、もうすっごいシンプルに、分かりやすくした方がいいんじゃないかな。

ものづくりだったら燕三条だよね、とか。大学が多い長岡は産学連携の街だね、とか。温泉と言えば川端康成も愛した湯沢かな、とか。自治体にひとつひとつタグを付けて、メッセージを明確化する。「それ、俺たちのとこにもあるけど」なんて内輪で言ってたら、よその人は「結局どこ行ったらいいですかね」ってなるじゃないですか。

どうにもぼくたちは、エッジを効かせるのがすごく苦手なんですよね。たぶん日本人全般がそうだと思うんですけれども。でも今の時代、それができないと人は来ないです。すでに良いところはいっぱいありますから、あとは伝え方次第なんだと思います。

貴重なお話ありがとうございました。最後に、若い世代の読者へメッセージを。

何かを始めるときは、ブルーオーシャンを狙いましょう。つまり「まだ誰もやっていない場所でやる」ということ。成功確率が格段に上がります。そういう意図でもいいので一度、新潟に来てみてはいかがでしょうかね。東京や世界に出た人からしたら、もうね。活かせるものばっかりなわけですよ。

ぼくはITでずっと戦ってきた人間ですが、IT×「東京」ってやり尽くされていて、新しいものが非常に生まれづらい。でもIT×「新潟」なら、元からある良いものとテクノロジーとの掛け合わせで、成功できる要素しかないとぼくは真剣に思っています。

その掛け合わせを探す発想力が鍵ですよね。IT × 「海」なのか。「雪」なのか。「田んぼ」なのか。挑戦する人がどんどん増えて、思いもしないソリューションがたくさん出てくるといいなって思います。ベンチャー協会の支援もね、皆さん自身のために存分に利用していただければ。

新潟ベンチャー協会によるオンラインセミナー。
新潟県内だけでなく、同様の課題を抱える地方からのアクセスも多い。

近い将来、新潟が「若者が挑戦するのに一番いい場所だ」って思ってもらえる土地になるよう、ぼく自身も頑張っていきたいなと思ってます。

では、これにてインタビューは終了となります。何か、言い残したことなどございませんか?

うーんとですね……。アッ、すごく極端なお話ですけれども最後にひとつ。新潟県、スーツやめた方がいいんじゃないかなって。これまた単純に、ビジネスマンはスーツを着なきゃいけない街Aと、みんなラフな格好で働いてる街Bがあった場合、若者はBに集まるよねって話で。

新潟にとって、スーツが伝統の地場産業ってわけでもなければ、雪は降るわ、夏は暑いわでメリットも薄いわけですよね。それだったら、もっと新潟人らしい正装が別にあってもいいよなぁと思うんです。沖縄県知事なんかは、公の場でも沖縄の感じをすごく出されてるでしょ。

文化も、産業も全部ひっくるめて、根本から変えていくことって、力を合わせればできるはずなんです。スーツを無くそうっていうのはあくまで一例ですが、そういう、慣習にとらわれない発想がたくさん出てくることが重要だと思っています。

若手を中心に、みんなで協力してちょっとずつ、ちょっとずつ変えていって、新潟をまったく新しい魅力ある街にできたらいいですよね。

インタビュー:2020年9月

Information

フラー株式会社モバイルアプリ分析支援・共同開発の他、IT分野に関する知見を地方創生・教育などに広く還元。「自動車だったらトヨタ、家電だったらソニー」といった、日本発祥の世界的IT企業を目指して活動中。社名の由来は、安定性と柔軟性を併せ持った分子構造「フラーレン(Fullerene)」から。

【柏の葉本社】
〒277-0871 千葉県柏市若柴178-4柏の葉キャンパス148街区2 KOIL 5階
TEL:04-7197-1699
【新潟本社】
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TEL:025-250-7421
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