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column 6

株式会社マグネット2020.11.01

職人の技術とアイデアを繋ぎ、
新たな価値創出によりそう。

ものづくりの町 燕三条で、株式会社マグネット(MGNET)はプロダクト製品の企画開発・マネジメント・ブランディングなどを請け負う。金型工場を営む家庭に生まれ育ち、故郷のことをあえて「ものづくりしにくい町」と評する武田社長に、その真意と、業界が目指すべき未来の在り方について伺った。

武田 修美(たけだ おさみ)新潟県燕市在。2005年、家業である武田金型製作所にて新規事業部及び自社製品ブランドを設立。独学でWEBサイトの構築とマーケティングを学ぶ。2011年、事業部売上の拡大を受け株式会社マグネットを設立。ものづくりの町 燕三条を拠点とするデザイン企業として「より良い環境をつくる」ことをテーマに、もの、こと、まちに好循環を生み出す事業を展開。

度重なる父との衝突、そして和解

御社の事業内容と沿革について教えてください。

我々マグネットは、父が経営する町工場「武田金型製作所」から生まれました。当初は自社製品である名刺入れの販売部門として動いていましたが、ものづくりの現場に身を置く中で、様々な課題が見えてきまして。自社はもちろん、多くの方の課題解決にも繋がると感じ、別会社として立ち上げた次第です。

社名の『マグネット(MGNET)』とは『Make Good Networks』の略称で、特に磁石とは関係ないんです。ものづくりに携わる人と、ものづくりを必要とする人の双方にとって「より良い環境を作る」ことを使命に起業しました。

具体的には、ブランディングやデザインなどの業務を請け負っています。製造業そのものより、その周辺を整備するような仕事というイメージですね。また小売店さん、飲食店さんや行政関係など、まちづくりの仕事にも積極的に参加しております。

社屋に隣接する「FACTORY FRONT」。生活雑貨のセレクトショップで、誰でも気軽に立ち寄れる。
当初の形態からは大きく変化しているのですね。
母体である家業についてはどのようにお考えですか?

燕や三条の子どもたちは、よく学校で「オマエん家は〇〇屋だよな」「〇〇作ってるよな」みたいな話をするんです。そこに私が加わると決まって「金型……?」みたいな反応をされたんですね。金型というのは、製造の現場で製品を加工するための道具ですから、一般のご家庭とは縁がない。おまけに、クライアントが変われば当然要求される金型も変わるわけで、私自身、幼い頃は「なんでウチは日によって違うもの作ってるんだろ……」と思ったものです。

工作好きな性分は父譲りで、中高生の頃は工場を手伝ったりもしましたが、与えられるように家業を継ぐのは嫌で……。実家のクライアントさんと競合する企業をわざわざ選んで、営業職として働いていた時期もありました(笑)。ただただ父に対する反抗心で動いていましたね、あの頃は。

互いに衝突をしなくなったのは、武田金型製作所へ入社し、社内起業の形でマグネットを立ち上げてからです。いち経営者として、父がいかに偉大だったかを実感するにつれて、素直に意見を聞こうと思えるようになりました。

その境地に至るまでは、喧嘩の絶えない日々だったそうで……。

そうですね、入社当初はそれこそ毎日のように。最初に任された仕事がホームページの制作だったのですが、当時の燕三条においてWEBを用いたコミュニケーションはまだ一般的ではありませんでした。「インターネットで金型は売れない」「じゃあ何のために作るんだ、親父の認識は甘い」なんて言い争いは日常茶飯事でしたね。

工場へ出向くことすら許してもらえないような状況で、日中は名刺入れの研磨、夜は独学でのWEB制作という生活を続け、どうにかネットショップを開設。最初の一年で売り上げた数はわずか11個でしたが、父はこれを私の実績として一緒に喜んでくれたんです。それを契機に出社も許されるようになりました(笑)。

そうして発足したネットショップ。
今では、世界にも展開を広げる一大ブランドに成長しています。
人と人、人ともの、人と場所。数多の出会いを繋ぐブランド「FOR」の名刺入れ。

多くの方にご愛顧いただき、嬉しい限りです。ただ、現在はかなり供給を絞っているんです。というのも、コロナ禍の影響で「名刺交換」というコミュニケーションそのものが減少傾向にあり、これまでやってきた中で一番、名刺入れが売れない時代が来ているんですね。

2018年に着手したリブランディングや、今年の頭に東京で予定されていた販促展示会など、今後ますます軌道に乗せていく算段が立っていたのですが……。国内はもちろん、世界的にも一気に需要がストップした印象です。

ブランド廃止の選択肢も検討しましたが、この状況下でも商品をお求めくださるお客さまが少なからずいらっしゃいますし、生産は続けています。とはいえ、従来の方法論が通用しなくなった今、我々がこれからの世に届けるべきものについて、見つめ直すいい機会なのかもしれません。

真に『ものづくりの町』と呼べる地域へ

アフターコロナの社会へ向けた取り組みについて、展望はございますか?

コロナ禍の発生より前、それこそ『Make Good Networks』という言葉を社名に据えた当初から構想していたことではありますが、世界中でコミュニケーションのあり方が大きく変化している今こそ、ものづくりを取り巻く環境そのものを改善していく必要があると思っています。

というのも、燕三条って『ものづくりしにくい』んですよ。ものづくりの町なのに。私自身がそうだったんですが、知識も面識もない人は工場に相談なんてできないし、できたとしてもお話にならない。「まず図面を持ってこい」なんて言われても、多くの場合、そんなの事前に用意できませんよね。

名刺入れを作るにあたり、うちではできない類の加工を依頼しに行ったら、多くの工場に「自分ちでやれ」と門前払いを受けまして。よその技術には案外疎かったり、協力し合える仕組みがなかったりで、同じ町の職人同士なのに、こんなにも連携が取れないんだと痛感したんです。

「職人カタギ」という気風は、情熱や夢、ロマンとは別に、特有の冷酷さをはらんでいると言いますか……。それが駄目だと言うつもりは全くありませんが、ものづくりに初めて触れるような人たちにも手を差し伸べられる町にしたい。そんなことをずっと考えていました。

では、マグネットが独立を果たし、現在の事業形態へ変化していったのは……。

そうですね。『作る側』から『作るための環境を作る側』に回ろうと判断したためです。プロデュース・デザイン・プランニング・マーケティングなど、よそで作られたものを扱う業務に携わっていくことで、人と人とを繋ぐ。そんな役割を担えているといいのですが。

以前お会いした外務省の方によると「これまで日本には『職人に宣伝の上手さは必要ない』という社会通念があった」と。その分、PRを生業とする人間に力が集中してきたそうです。「だからこそ、これからは『作る側』から『伝えるスキルに強い人材』が出てこないといけない」と仰っていて、マグネットの目指すところは間違ってないぞと自信をもらえたんです。

ものづくりを自ら実践してきた身だからこそ、伝えられることがある。
そういうことでしょうか?

ええ。ですので、作り手としてのマインドも持ち続けているつもりです。名刺入れの製造・販売を辞めなかった、もうひとつの理由でもあります。個人的に、商売というものは『作る』『運ぶ』『繋ぐ』の三つに大別できると考えているのですが、その領域全てを横断できる企業にしたいんです。

名刺入れの研磨(『作る』)に始まり、WEBを介して遠く離れた場所にも商品をお届け(『運ぶ』)した。そして今、さらに広くこの町の魅力を伝えるため『繋ぐ』仕事に本業をシフトしている……。いつか『ものづくりの町 燕三条』という呼び名が、内輪だけでなく全国からも認知してもらえるようなブランドに成長したら嬉しいですよね。

チームと共に学び、地域と共に育つ

ご自身の故郷、燕市についてお伺いします。この町を象徴する景色を教えてください。

それはもう、圧倒的に『中之口川』ですかね。ちょうど信濃川からこの近辺で別れる支流なんですが、燕市が金属加工の町として発展した理由はこの河川にあるんです。

古くは農業で生計を立てていたこの地は、地理的な要因から繰り返し水害が発生しました。何度も何度も流されては、そのたびに復興してきた歴史の中で、家屋や橋の修繕に用いる和釘づくりが発達。次第に金属加工を生業とする職人が増えていったそうですよ。

この町のものづくりは、先人が積み重ねてきた教訓の上に成り立っているんですね。

そういう意味で、先人たちにとっては河川は脅威の象徴だったかもしれません。ですが私個人としては、早朝に散歩へ出かけて、中之口川を眺める時間がとても貴重なんです。近年、ヨーロッパに行く機会が多いんですが、向こうは川や水辺にある街が多いんですよ。早朝の空気感ですとか、地域の河川の雰囲気なんかが意外と似通っているんですね。そうした景色はすごく好きです。

あとは、スタッフたちと一緒に工場見学へ出かけたりとか。近所の工場はもちろん、別の産地まで足を運んだり、地域の史料館を訪れたりというのを、創業当時から行っています。自分たちのことだけでなく、周りのことを知らなければ、地域一丸となっての成長はできませんから。

しょっちゅうそんなことをしているので、地域の方々には多分「すごくハッピーな集団」だと思われてるんじゃないかな。ウチ、採用条件に「休日も一緒に遊びたいかどうか」みたいなところがあって、社員同士、そもそも人としての相性を重視した関係なんです。だからこそ一緒に楽しく働けて、休日も一緒に遊べて、より長い時間一緒に学ぶことができる……。そういう組織づくりを意識しています。

とあるプロジェクトのお礼として、地元の小学生から寄贈された品。

繋げていくこと、伝わっていくもの

そんなマグネットからこの度、ものづくりの輪を広げる施策が提案されました。

『CrowdCraft(クラウドクラフト)』。ものづくりに関する相談をオンラインで受け付け、開発・製造・生産の実現を支えるオープンクラフトプラットフォームです。先ほどお話したような「ものづくりへの参画障壁の高さ」を取り払い、漠然としたアイデアと職人の技術とを『繋ぐ』ために立ち上げました。

私がものづくりに携わっていく中で、ずっと感じていた課題。それを解決すべく温めていた構想が、今年ようやく形になりました。ある夜、プランを紙にバーッと書き出して、一人のスタッフに送ったんです。こんなことを考えていると。そしたら「めちゃくちゃ面白いですね」という風に言ってくれて、一気に加速していきました。

リリースの時期がコロナ禍と被ったのは本当にたまたまなんですが、奇しくもCrowdCraftはこれからの時代、必要不可欠なサービスになるだろうなと考えています。対面での商談など、これまで当たり前にできていたコミュニケーションが難しくなってきたわけですから。

ものづくり業界がさらに成長し、存続していくために
欠かせない存在となるかもしれませんね。

ある頃からずっと意識していることなんですが、ものづくりは既に「ものを作っているだけではやっていけない」ステージに突入していると考えておりまして。良い品を作っていれば、黙っていても誰かが見つけてくれるっていう時代ではもうないんですよね。

ある技術が、その技術を必要とする人たちにキチンと届くこと。さらに言えば、一方的に『伝える』ような届き方より、双方向的なコミュニケーションを介して『伝わっていく』こと。そうした関係性づくりが一番重要だと思っています。CrowdCraftがその一助となれば幸いですね。

では最後に、若い世代の読者へ向けてメッセージをお願いします。

進学や就職を機に県外へ出る方って非常に多いと思います。それを否定する気は全くないのですが、できれば心のどこかで故郷のことを覚えていてほしいとは思いますね。特に今、実は地方の方が面白いんじゃないかって時代な気がするので「新潟で挑戦する」っていう発想を選択肢として持っておくのはアリだと思います。

というのも、新潟ってすごく商売に向いている土地だなと思っていまして。田中角栄さんの影響も大きいと思うんですが、港町として栄えた経済基盤があり、アルビレックスを代表とするスポーツ振興があり、四季折々の風景がある。それでいて、東京まで新幹線で2時間というのも非常に大きいですよね。私自身、いろんな土地で講演をさせていただく機会があるものですから、余計に新潟のポテンシャルを感じるんです。別に、自分が起業した地だからこう言ってるわけじゃないですよ。

あと、これは特に中高生と話す際にはなるべく伝えるようにしているんですが、夢を必ず持っていてほしいなと思います。才能が、運が、努力がどうのという話より前に、まずは夢を持ち続けるという姿勢が成就の第一歩だと思うんですね。そういう夢追い人を案外馬鹿にしないっていうところも、新潟の特徴のひとつだと個人的には感じています。

持ち続けることで夢が叶った、ご自身の実体験などがあるのでしょうか?

私、大のアニメファンかつゲーマーなんですが、そうした長年の趣味とビジネスが結びつくような経験を、まさに今しております。燕三条を舞台にした『クプルムの花嫁』という漫画があるんですが、その監修を弊社が担当しているんですよ(私自身は特にタッチしていないので、何ともPRしにくいところではありますが……)。

主人公・しいなと鎚起銅器職人・修の関係を描くラブコメディ。((C)namo/KADOKAWA)

新潟日報さんや燕市・三条市さんのブログで取り上げてもらったりして、ちょっとしたムーブメントになりました。いつか実現してみたいと常々思っていたことでしたが、地元の産業がこういう風にコンテンツになるって、そうそう無いじゃないですか。私たちの中では非常に大きな出来事なんです。

伝統工芸×サブカルチャー……。
これまでの「燕三条ブランド」とは一線を画す内容ですね。

はい、周りにはスゲー怒られます(笑)。でも、そういう入り口があってもいいと思うんですよね。現に、漫画を読まれて工場見学にいらっしゃるお客さまの話もよく聞くようになりました。漫画家さんに見つけてもらって、その読者さんに見つけてもらって、業界の外へ、外へと魅力が伝わっていく。いつか、そうした影響から職人を志す若者が現れたり……。そんなことを思うとワクワクしますね。

インタビュー:2020年7月

Information

株式会社マグネット自社ブランド「FOR」の企画・開発・販売を手がける。その他、製造業を中心としたコンセプトメイク・ブランディング事業、また地域資源の活用支援事業などを通じて、ものづくり業界の活性化に貢献。何かと何かを繋ぎ、新たな価値を創出する”磁石”の役割を担う。

〒959-1289 新潟県燕市東太田14-3
TEL:0256-46-8720
URL:https://mgnet-office.com/

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