株式会社ソルメディエージ2020.12.15
クリエイティブに不可欠なのは
自分が「夢中」になること。
新潟を拠点に、日本全国のみならず世界のデジタル・クリエイティブ業界を牽引する株式会社ソルメディエージ。同社の代表であり、自らもクリエイターである丸山社長が大切にしている「夢中」とは。また、地方都市新潟で、全国でもいち早くプロジェクションマッピングに着手した当時の想いを伺った。
丸山 健太(まるやま けんた)1977年生まれ。新潟県三条市出身。学生時代、野外フェス等での映像・空間演出をきっかけに、都内の照明・映像関連会社へ入社。2003年、東京・新潟にてソルメディエージを起業。新潟を拠点に、全国各地でプロジェクションマッピング・照明演出・最新テクノロジー連携によるプロデュースを行う。一般財団法人プロジェクションマッピング協会理事。2020年より新潟ベンチャー協会理事。
新潟×プロジェクションマッピングの立役者
社名の「ソルメディエージ」とは、どんな意味なのでしょうか。
意味合いとしてはSOLUTION(解明)、 MEDIA(媒体)、AGE(時代)を合わせています。僕が会社をスタートさせた2003年ごろは、パソコンが身近になったり、DVDが出てきたり、自分で映像をつくる環境が当たり前になったりと、メディアがいっぱい出てきた時代。
これからは、紙だけでも映像だけでもWebだけでもなく、いつかメディア自体が一緒になっていく。でも、こんなにスピードが早いなかで、お客さんたちはどこをどういう風に扱えばいいか分からないだろう。じゃあ、メディアを時代背景に合わせて助けられるような形の会社にしよう、と名付けました。
プロジェクションマッピング事業を始めた経緯を教えてください。
うちはグラフィックデザイン、Web、映像の部がありますが、プロジェクションマッピングに着手し始めたのは2012〜2013年ごろ。東日本大震災が起きた後の年で、仕事が激減していた時期でした。
当時はまだ、プロジェクションマッピングという言葉は世の中に出ていませんでしたが、海外のクリエイターたちがパーソナルなレベルで実験して、YouTubeにどんどん動画をアップしている流れがあったんですね。
うちはもともと、空間に映像を打つ「VJ※」をやっている人間が集まってできた会社なので、空間にプロジェクターを打って人が喜んだり感動するという部分に、似たものを感じました。ちょうど震災下で仕事もないからと、プラモデルを作って練習をしてクライアントさんや代理店さんに見せていたら、実際にやることになって。
友人の結婚式や、カーディーラーさんの車のプロモーションで車に映像を打ってみたら非常に手応えがあったので、すぐに夢中になりましたね。あ、これ今の仕事を始めた時と似た感じだな、と。やるんだったら新潟で一番にならないと意味がないので、事業としてスタートしたのは早かったと思います。
ちょうど、光と映像で新潟を元気にしていこう、というのが新潟市で掲げられた年でもありました。新潟市の姉妹都市であるフランスのナント市などでは、観光資源はあまりないけれど、プロジェクションマッピングとイルミネーションでまちづくりをしていたんです。これを新潟で形にしていこう、というのが頭にあったので、新潟市さんにいろいろと提案をさせていただきました。
※Video Jockey(ビデオジョッキー)、Visual Jockey(ビジュアルジョッキー)の略。
事業の黎明期に、失敗したエピソードはありますか。
とにかく最初はマッピングっていくらなの?というところから始まりましたね。幅40メートル、50メートルの建物に映像を当てるとなると、今まで使っていた小さいプロジェクターでは間に合わない。大きいものだとレンタル代が数百万にもなるので、予算的に成立しないことが多々ありました。
プロジェクションマッピングは建物に当ててまずスタート、みたいなところがあるのですが、イベントは工期や準備期間が決まっています。延びれば延びるほどお金が掛かってくるなかで、準備して、一日二日で映像を合わせて、手を入れて……。猶予が、テレビや画面で見る映像制作とは別物ですよね。
最初は試行錯誤だったのですね。
もう、手探りでしたね。最初は自分たちでプロジェクターを用意して、制作もオペレーションもやっていましたが、やっぱり限界があって。それこそ新潟市の大きなイベントが入った時に、地元の映像屋さんやイベント屋さんに状況や予算を伝えて、「今後はチームでやっていきたいです」というお話をしました。
地元の会社さんたちのバックアップがなかったら、僕たちはスタートに至らなかったですね。今もマッピングする時は同じところにお願いして、機材も用意しています。
県外の仕事の時も同じスタッフィングでしょうか。
新潟からチームで行くケースが多いです。「どこの会社がやってるの?」となった時に、東京ではなく新潟からだったら、意外ですし、粋ですよね。
新潟では継続的にプロジェクションマッピングをやっていて、市もすごく協力的でロケーションも環境も良いということで、2015年と2016年には、東アジア最大のプロジェクションマッピングの国際コンペの開催場所に選ばれました。だから、今も県外や国外の方々には、なんとなく新潟はプロジェクションマッピングをやっている街だ、というイメージは付いていると思います。
新潟に米、雪、日本酒以外のイメージをつくったというのは素晴らしいですね。
2016年に新潟市で開催されたプロジェクションマッピング国際コンペティション「1 minute projection mapping 2016」では、出品作品『QUA2DUO「DOOR」』が2位を獲得した。
「夢中」がすべての原動力
2003年に起業するまではどんな活動をされていましたか。
大学時代はクラブでVJをやっていました。映像単体の面白さより、照明や空間でそこにいる人たちがハッピーになるのはすごく素敵だなと思っていて。当時将来の夢もなかったのですが、唯一夢中になった瞬間でした。
大学卒業後は、東京の照明会社で働きながら今みたいな活動をしていましたが、まあ若かったんでしょうね。2年経たずに仕事を辞めて、新潟の実家に帰りました。
家にお金も入れないで、アルバイトをしながら好きなチラシや映像を作って……という生活を1年くらいした後、学生時代の仲間たち3人で集まって会社をスタートさせたのが、今のソルメディエージです。資本金なんてほとんどなくて、アルバイトで貯めた15万、20万からスタートしました。
「好き」があったから始められたのですね。
寝ずにやっていましたからね。今もそうですが、やっぱり夢中になることは大事だなと。それだけでは済まないことも現実にはありますが、結局「夢中」が原動力になっていることは間違いないので。それは、15年間思っていることです。
2018年の「燕三条 工場の祭典」では、丸山社長がマルナオ株式会社さんの空間演出を手がけたとか。ストーリーやテーマ作りのポイントはありますか。
2015年より作業着RUNWAYのお手伝いをさせて頂いております。マルナオさんは木に囲まれ神秘的な空間。その素材を生かす空間作りをしたらカッコイイな、というのは現場でイメージしました。「木肌は相性が良いんだよね」、「この大きい木のこの角度だったら表情が出るな」、「照明はなるべく木の間に隠して、木自体を引き立たせよう」、「神々しい効果が映像で欲しい」という風に。
やっぱり現地に行って、見て、想像するというのは、なんでも大切だと思います。
結局、クライアントさんが「すごい」と言ったって、そこに集まる人がどう見るか、どう感動するかを考えないと。こういうエンターテインメントには意外性や驚きがなければと思っています。特に、感度の高い若者に「ヤバイ」と絶対言わせる何かが欲しいと、現場に立つといつも思いますね。
クリエイターの能力を引き出すチームづくり
WEBやグラフィックなど、さまざまなクリエイターが在籍していますが、どのように集まったのでしょうか。
会社を始めた頃は、「給料いらないから一緒にやらせて」と近しい人が声を掛けてきたり、インターンシップでうちに来た人が「学校よりも勉強になるので」と入ってきたり。そういう核を持った人間が集まってくることが多かったですね。
字を書くだけ、WEBを作るだけ、映像を作るだけ……ではなくて、面白いことは全部やらせました。だからうちのWEBクリエイターは映像も作れるし、イベントで音も出せるし、現場も対応できる、わりとマルチな人間が多いですね。面白いことをやっていたらみんなできる人間になっていたという。
クリエイターを惹き付ける何かが丸山社長にはあった。
なんでしょうね、変わっているから?(笑)けっして福利厚生も良くなかったですし、社会貢献なんて「なにそれ?」。法人にも最初の1年半はなっていませんでしたからね。それでも人が集まってくれたのは、何か新しいことをやっている会社で、「あそこはカッコイイ、クールだ」と思ってくれたから。
「夢中」はクリエイターを掻き立てる力があるのでしょうか。
夢中ってことは、何かを作る時、特にゼロベースから作る時に絶対に必要なこと。向いてるか向いていないかじゃなくて、どう夢中になれるかが大事だと、最近は思っています。
夢中になったら必然的に苦労を感じずに上達していくし、人の倍吸収していく。「やれ」じゃなくて「やりたい」だったら、どれだけ前に進んでいくかですよね。うちがものすごいスピードで形にしていっているというのは、夢中になれているからだと思います。
これが仕事のなかで自由度を奪っていたら、社員も生きにくくなっていく。だから、うちはものすごく自由です。数字のノルマを求めたこともありません。ただ、限界ラインだけは共有しているつもりです。
自由だからこそ、社員をまとめるのは大変だと思いますが……。
やっぱり社員は個性を持っていますし、イエスマンではないです。それぞれがそれぞれの意見を言ってくる会社ではありますが、だからチームでやりにくいというわけではなく、近しい会社でありたいと思っています。彼らが自由に生きやすい、働きやすい、夢中になれる環境を作るのが自分の役目ですね。
こんなことを言いながらも裏では葛藤していた時期もありますが、今年はコロナもあり、いろいろな意味で一皮むけたというか。気持ち的には全部任せよう、という風になったのは、ここ数年だと思います。
任せるって、恐怖との戦いですけれどね。自分が思っているベクトルと違うこともあるので。でも、社員は社員で十数年で培った会社の見え方、考え方があるので、良い意味でストレスなく、プラスにエネルギーが働いてくれればいいと思っています。
仕事ではさまざまな壁があると思いますが、どのようにして乗り越えていますか。
時には無理難題な依頼が来ることもあって、頼まれたからには応えたいけど、歳をとるとだんだん弱腰になってくるんですね。何かを変化させて新しいことに挑戦することって、ものすごい恐怖。でも、考えていることの方がストレスなら、やっちゃった方が早い。
「やった向こう側には失敗もあるけど、何か新しいものが生まれるから、まずはやれる方向を考えよう」とは、社員みんなで考えてやっています。一歩踏み出すかどうかなので、スタートアップでもなんでも、恐怖との戦いですよね。
スタートアップというところで、丸山社長は新潟ベンチャー協会にも所属されています。
スタートアップって今、すごく世の中で言われていますが、きっかけは与えられても、一人でやるのは限界が出てくると思うんですよね。
自分の場合は、周りの新潟の先輩たちが「うちのHP作ってよ」、「何々さんと繋げてあげるね」、「うちのデザイン頼むね」と、いろいろなきっかけやチャンスをくれたので、今があります。だから、僕は同じことを後輩たちにしていきたいと思っています。
「夢中」は人生のなかで出逢うもの
では最後に、若い世代の読者へ向けてメッセージをお願いします。
今は自分で選択をしていい時代になってきていますが、自由になったからこそ、「やりたいことが見つからない」という方は多いと思います。
「どうしたら夢中になれることを見つけられますか」とよく聞かれますが、見つけなくて良くて。だって、今までの人生で生きてきたフィルターって、ものすごくスケールが小さいじゃないですか。そのなかで将来の夢を考えたって、テレビや映画で見たからとか、身近な人がそうだったからとか、そういうフィルターで見た将来の設計でしかない。
外に行って、誰と会って、どんな経験したかによって、人生の方向性なんて全部変わりますし、夢中になるものもそこで出てくる。だから、焦らなくていいんじゃないでしょうか。夢中を探すこと自体が夢中じゃないというか、ナンセンス。今の段階で自分に向いていると思うところを、とりあえず一生懸命頑張れば良いと思います。
ただ、どういう風に人生を切り開くかは自分次第でもあります。ゲームオーバーはいつでも自分で作れると思うと、だったら面白いことをやらないと損だな、チャレンジしないと損だな……と、僕は思います。
チャレンジしなければ何も始まらないですね。
今、世の中は混沌としていて、最近も残念なニュースばかり増えていますよね。そのなかでどうポジティブに考えていけるか、というのは今後のテーマだと思います。
特にテレワークになって、周りをよく見るべき時代に入ってきていると感じます。「自分だけがこんなに大変」ではなく、もっと大変な人がいる。じゃあ話を聞いてあげたり、逆に話を聞いてもらったりしようと。辛いことがあっても、周りを見るとみんなが戦っているから「よし、自分も頑張ろう!」と、すごく思います。
これだけ会いにくい、接触しにくい世の中でも、やっぱり人と人とが握手して、「よろしく」「ありがとう」なんて言うことは、ものすごく大事なことなんだと感じています。
インタビュー:2020年9月
Information
株式会社ソルメディエージ2013年~2016年の「ラ・フォル・ジュルネ新潟」など、新潟市の数多くのイベントでプロジェクションマッピングを手掛ける。映像制作においては2019年に新潟市の海外向けPR動画『NIIGATA A HIDDEN GEM(新潟市 隠れた宝物)』を制作。「日本国際観光映像祭」で日本部門準グランプリなど、6部門でタイトルを受賞した。
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